TOP家づくり物語版築の庭

親から受け継いだ大切なものをいい形で残すために

数寄屋風の建物を活かす、風情ある枯山水の庭園に改築

古くから大切に住み継いできた旧家が立ち並ぶ住宅街。Tさん邸もその一つだ。 
「親から受け継いだ大切な住まい。とはいえ、時代の変化により暮らし方も変化していますし、何より子どもたちの成長につれ、リフォームしたいと思うことも多くなってきた」と奥様。ご近所も同様で、リフォームするお宅も少なくないそうだ。

 そんなご近所1軒の建物に、大きな感銘を受けたという奥様。その設計・施工を担当したのが「き」なりの家と知り、「いつかリフォームするなら」と思っていたが、ある日ご主人がサプライズで同社のコンセプトハウスに誘ってくれ、その見学を終えるころにはますます熱心なファンになった。
「住宅そのものは思い出も多く、リフォームの決断はまだ当分できない」というが、お嬢様の大学進学・免許取得を機に、車庫を含めた外構と庭をリフォームすることに。
コンセプトと基礎的なプランニングをきなりの家の設計士がまとめ、それに基づいて、きなりの家御用達の熟練の庭師が丹精込めて作り上げること、約2か月。その出来栄えに、「庭だけといっても、あなどれない変化です。“庭は家の顔”なんですね。庭が変わるだけで、暮らし心地がまったく変わりました」と話す奥様は、イキイキと、喜びを隠せない様子だ。

風情豊かな版築と軽快な動線のアプローチ

駐車スペースをゆったり取って、門と前庭を追加した

車庫・物置として、市道に面した2階建ての倉庫兼車庫を使っていたが、思い切って解体。新たに設けた車庫はオープンな設計で、圧迫感を排除。さらに市道ギリギリまであった塀は北へ数メートルずらし、3台分の駐車スペースを確保した。 
「娘だけでなく、私も主人も、車が留めやすくなったと実感しています。庭全体の明るさや風通しも良くなり、本当は庭の面積は減ったのに、逆に開放感が生まれたのが不思議な感じです」と、ご家族そろって喜んでいる。

 正面中央のモダンにアレンジした数寄屋調の門をくぐると、象徴的な二つの版築がお出迎え。土の層が素朴な中にも洗練された趣を漂わせる。その版築を迂回するように、つづら折りに玄関へといざなうアプローチ。大判の敷石と、モザイク状に組み合わせた小石のデザインが、軽快でモダンな表情だ。
 アプローチは庭と一体化したデザインの一部になっており、視線を方々に振るようにデザインされることで、門から玄関に至る導線に距離感が生れている。

「美しさだけでなく、機能的にも細かい配慮が行き届いているのが嬉しい」と、ご夫婦。「車止めの数を追加したり、郵便受けの下に石を一枚敷いて取り出しやすくしたりと、職人さんたちが気づいたことを積極的に提案してくれました」と振り返る。

門をくぐると版築が出迎える

版築壁の素朴な味わい

門を抜けた先には石畳が

灯篭とつくばいが風情を醸す

本格的な日本庭園を、現代の生活に調和させて

既存の造作と新しい物を組み合わせた開放的な和庭

アプローチの西側には、築山、白砂の枯山水の池、石灯篭といった、伝統的な構成にのっとった日本庭園が広がる。
 「石や灯篭、つくばいなど、もともとあったものを最大限生かしているので、懐かしさもある一方、リフォームによって大きく変わったのが植栽です」と話すご夫婦。「四季が感じられる庭」というリクエスト通り、初夏の緑、秋の紅が美しいもみじなど、多彩な植栽を見事なバランスで配置。「季節によって表情を変える植栽を見ていると、こちらも生きる力がわくような気がする」と、納得の表情だ。
 
そして、和庭なのに松がないという点が大きな特徴。「職人さんでないと手入れができない木を避け、ある程度自分で手入れができる庭を、という提案をいただきました。枝や葉の間引き方など、メンテナンスの講習もしていただきました」。
 「下草は平らでなく、微妙な隆起をつけて植えています。これは水の流れをコントロールして、雑草を生えにくくするためだそうです」と、庭の知識がどんどん増えていくのも楽しくてしかたないようだ。

 夜の眺めも大のお気に入り。「生活感がなくなって、後楽園の“幻想庭園”みたい。お仏壇から眺めている義父母もきっと喜んでくれていると思います。たかがお庭だけのリフォームだったんですけど、私の気持ちが明るくなったせいでしょうか?家族みんなの笑顔が増えました」と、奥様。次は子どもたちが負担にならない形で、大切なものが残していけたら」と、庭に向けるご夫婦のまなざしは、心と暮らしの充実ぶりを物語っている。

取材ライター:河田

前庭は石垣と自然石を配置

石畳を抜けて広がる庭

アプローチは低い樹木で

門扉手前の大きな踏み石