住まいの理想を追求し、時を経ても変わらない思想を伝え続ける建築
近年、身近な住環境の問題が日々の生活や報道の中で多く取り上げられるようになりました。住宅・建築物のCO₂排出や、シックハウス症候群による化学物質へのアレルギー症状など、健康に直結したこと。また、空家問題や、老朽化・陳腐化して機能的に古くなった建物が建物の寿命を待たず壊されてしまうことも環境問題の一つです。
そういった問題が社会で注目され始めた1998年に、「き」なりの家は創建されました。人が自然と共存しながら快適に暮らすため、『省エネルギー』・『長寿命化』をメインテーマとした、当時としては先進的で様々なコンセプトを「豊かさ」を感じる建築と、緑と水の流れを湛えた庭園に具現化したのが、蓄熱床暖房式のコンセプトハウス「き」なりの家(第4回(平成10年度)環境・省エネルギー住宅賞受賞)です。そして、2019年冬、24時間全館空調(OMX)のコンセプトハウスを新たに建築しました。
時代の移り変わりとともに、進化する技術を柔軟にとりいれながらも、豊かさの設計や省エネルギー性能など、私達が思い描く住まいの本質は長い年月を経ても色あせることなく変わりません。「き」なりの家は、竣工当時のまま変わることなく、私達の建築に対する考え方を皆様にご覧頂き、体感して頂く場として存在しています。
蓄熱床暖房棟(スキップフロア)
バーチャル展示場公開中
家屋と緑が一体化した、自然とゆるやかに繋がる「豊かさ」の実現
自然をつくり込む
起伏に富む庭の造形は、自然の風景を模しながら視線を遮る工夫です。屋根の緑化と合わせて、四季折々に表情を変える庭は、庭師の緻密な計算と美意識により一年を通じて豊かな表情を湛えています。
中心を流れる小川(ビオトープ)に流れる水は、使用後の井戸水を濾過・浄化し、雨水タンクに集めておいたもの。水辺にはクレソン、セリなどの水生植物を植え、より自然に近い形を実現しました。
庭の木々は鑑賞するだけのものではありません。西側にある窓辺を彩る欅や楓などの落葉樹は、冬は落葉して光を室内に導き、夏の日射除けとなり、室内環境を優しく調整します。
土地の起伏を活かし、活かされる
起伏に富んだ自然の条件を想定し、あえて高低差のある地形をつくりました。その起伏に添う形で、リビングと和室を半階上と半地下にずらし、視線の抜けをつくることで空間の変化を持たせると同時に、エントランスから室内まで大きな高低差を感じることなく緩やかにアクセスできます。また、世代交代時の可変性を持つことも意図しています。
起伏に富んだ庭は、巧みに外からのプライバシーを確保し、中二階の開口部は道路からの目線がずれ、カーテンやブラインドが不要になります。大きなコストをかけて敷地の条件を造成で平坦に造成せずとも、魅力ある建築をすることは十分可能です。
開口部の設計
大きくとった南面の天窓の軒の出を1.5mと深いものにし、夏季には直射光を遮らせ、冬季は室内の北側の壁まで届くように設計しました。夏と冬に自然にモードが切り替わる庇と屋根の設計がパッシブソーラー思想の核です。反対に、北側の窓は冬の熱損失を配慮して最小限としています。随所に設けられた、高い断熱性能を誇る木製窓も「和」の意匠に違和感なく取り込むようにデザインしています、景色を楽しむ巨大なFIX窓、風を取り込む窓、光を呼び込む窓、出入りするテラスドアといった要素に特化した性質の窓を一か所に集め、梁と柱で構造補強された南面の連窓の開口部が、きなりの家の特徴のひとつになっています。
自然の力で快適に暮らす、日本の住居思想の継承と革新
パッシブソーラーハウス
パネルや設備機器に頼らずとも、合理的な建築の設計によって太陽熱を利用した建物を設計するパッシブソーラー。軒の出を深くし、夏期には上からの日差しを遮らせています。また、日差しの角度が低い冬季には、窓から入る熱エネルギーを床下の蓄熱体や壁に蓄えて、輻射暖房の一助としています。
また、熱の移動や通風を効率良く行うために、南の地窓から北の吹抜けを通って最上階北の天窓へ抜けるよう風の設計にも配慮しています。
輻射熱の安定したワンランク上の快適な住まいを実現しながらも、太陽熱・風を利用するパッシブデザインを随所に組み込みました。
蓄熱床暖房
木造の建築物は熱容量が小さく、ダイレクトゲインによって得られた熱を蓄積することを苦手としています。冬期には、低い角度で太陽光が室内に差し込んでいるにも関わらず、熱エネルギーを十分有効利用できていません。
きなりの家は床下に18cmの蓄熱コンクリート層を敷設。更に石積みの壁、土間の洗い出しコンクリートによって木造建築の熱容量を高め、窓から降り注ぐエネルギーを効率的にためこみます。大きな蓄熱体に蓄熱された熱は輻射熱として室内に遠赤外線効果をもたらし、体の芯から温かく過ごせます。
このように自然エネルギーを活用することにより、機械設備などによるエネルギー消費を削減し、レス・エネルギーモデルを実現しています。
伝統工法の木組み
100年以上安心な木造建築工法の協議を重ね、大きな地震によるひずみを受けても対応出来る工法として、金物を使わない伝統木造工法であるコミセン工法を用いました。ヒノキの4寸角・5寸角・8寸角の大断面の柱を使用し、柱の内部でホゾをかみ合わせて大きな断面の水平材同士を繋いでいます。これにより、従来の伝統工法よりも接合断面を確保しながら、合理化することができました。また、職人の手で組み上げた木組みの構造は、意匠的な美しさが増し、柱と梁の構造を室内のデザインの一部にすることができました。柱と梁が窓枠を兼ねた特徴的な開口部デザインも、剛性を持たせながら窓の面積を大きくする、構造補強の観点から生まれました。
ライフサイクルアセスメントを考慮した、環境に優しい家づくり
自然素材の活用
「き」なりの家ではセメント、ガラス、アルミなど資材製造時のCO₂排出の多い材料は多用せずに、環境への負荷が低い木材、土、石を多く使用しました。断熱材には水蒸気や空気中の化学物質を吸着する羊毛を使用、壁は漆喰・土壁といった呼吸する素材で仕上げているため、壁内部の通気性に優れており、結露・カビ・ダニの発生を抑えます。このような空気の清浄さはシックハウス症候群を起こさないために非常に重要です。また、建築材として使用した木材は建物の寿命がある限りCO₂をストックしており、いかに建築物を長く持たせるかも、ライフサイクルアセスメントの観点から重要視しています。
長寿命化住宅
長寿命化住宅は、省エネルギーなどによるランニングコストの最小限化に加えて、デザイン・機能ともに長く受け継がれ、幾代にもわたって愛され続ける家であるよう、日本人にとって普遍的に受け入れられる意匠にデザインしました。きなりの家では半地下に和室を配置し、半地上にリビングを置くスキップフロアを導入することによって空間に変化を持たせました。世代交代をするときの可変性を意図し、自由に間仕切りを加えることで柔軟に家族構成の変化に対応できるようにしています。また、木・土・石のいつまでも趣を失わない素材を用いることで、木造建築の長寿命化を目指しています。
気候風土に寄り添う家
西日本の気候風土である長く蒸し暑い夏と冬の寒さに自然エネルギーを活用することによって対応し、省エネルギーに配慮しながら、夏と冬のモードを自然の力で切り換えて、外部の気候に適応した快適な室内気候を実現することを目指しました。更に、大きな河川敷を抱える水源地(浄水場)に隣接する緑豊かな敷地の特性を生かすため、屋根や壁の一部を緑で覆い、水草をテーマとした小川を作り、雨水を利用した水の循環と浸透を試みています。また、蔵のある古い民家の集落に隣接しているため、シンプルな切妻屋根に屋上緑化を施し、土地に調和した建築物に作り上げました。
全館空調棟(平屋感覚の計画)
バーチャル展示場公開中
今の時代を反映した新しい家づくり
これからの住まいに求められる平屋感覚の暮らし
「家で過ごす限られた時間を、濃いものにしたい」と望む共働きのご夫婦が増えている今、生活に必要なものをワンフロアで完結することができる平屋は、家事の負担を大きく軽減してくれ、家族と過ごす時間を生み出してくれます。お子さんがいらっしゃるご家族は、子供部屋を2階にもってくることで、老後は1階をバリアフリー空間にすることができ、快適な暮らしを実現できます。先を見据えたデザインにすることで、今の暮らし、未来の暮らしを豊かにしてくれるのが「平屋感覚の家」です。
太陽光のエネルギーで
一年を通して快適な全館空調(OMX)
全館空調(OMX) は、太陽光パネルを併用した一つのユニットで屋内全体をゆっくり温度調節する空調システムです。冬は太陽光パネルで温められた気流を床下に送り、気流を感じない穏やかな空間を実現。夏は発電した電力で家全体を効率的に冷却し、部屋の隅々までむらのない温度に保つことができます。冬は家の冷えやすい場所の足元から温められることでヒートショックのリスクも軽減。さらには、OMX の家と一般の家を冷房27℃、暖房20℃に一年を通して24 時間運転した時、その電気代はOMXの方が半分程に抑えられるのです。